行動障害・行動分析学特論資料アップ

 行動障害心理学の次の授業の資料を2点WebCTにアップしました.「行動障害04」(PPとPDF)と「この10年」(pdf)というタイトルの資料です.大学院の行動分析学特論にも「この10年」はアップしてあります.
 行動障害心理学では,来週から,いよいよ応用行動分析学の方法を用いた,行動障害(問題行動=行動問題)への対処に関する実証的研究の歴史をたどります.
 まずLovaasらによる電気ショックを用いた自傷行為の治療の研究をとりあげます.
 罰は,効果の点でも倫理的な面でも,対人援助場面で使ってはならないものです.そのことは当時の行動分析学でも同様であったのですが,Lovaasはそれを承知の上で電気ショックを罰(行動を減じる目的で嫌悪刺激を随伴する)として使っています.それはなぜか.どのような論理でこれを用いたのか.授業では,このあたりの背景についても原文の中の彼のコメントを紹介しながら考えていきます.禁じ手の「罰」を用いていたという歴史的事実についてもわれわれは知っておく必要があると思います.

 「この10年」の資料は,いまや10年前となりましたが,私が当時,行動科学学会のWinter Conferenceで発表したもののまとめです.行動科学(ここでは行動的立場をとる心理学)がどのように「この10年」(1980年代からの10年),障害の問題にアプローチしてきたか,という内容です.
 その10年はノーマリゼーションを主張するグループと行動分析学の関係が悪化してしまった10年でもあります.そして,ノーマリゼーションのグループから,行動分析に対する批判の象徴としてあげられるもののひとつが「電気ショック」(罰によるトリートメント)です.
 批判は必ずしもLovaasの研究だけに向けられたものではありません.当時,電気ショックを「罰」として用いた方法は,米国でもしきりに行われていたようです.昔,私がコロニーに着任したばかりの1980年代に,アメリカから電気ショックの装置のパンフレットが届いて驚いたのを覚えています.わたくしとしては,ショックを使うのが行動療法,正の強化のみを使うのが応用行動分析,という風に,全然違うものだと考えていました.
 しかし,自傷行為によって確かに「正の強化で維持される行動の選択肢の拡大」が妨げられることも事実です.正の強化で行動を制限するのと,罰を用いて拡大に結びつけるのとどちらが正しいか,という議論も当時あったと記憶しています.
 もちろん,プロの対人援助者は,正の強化を手段としても目的としても用いるべく努力しなくてはならならないことは言うまでもありません.
 (ちなみに,ノーマリゼーションの実現に向けての行動分析学的な貢献は,手段としての正の強化ではなく,目的としての正の強化である,という,より根本的議論は,行動分析学研究8巻1号の特集号「ノーマライゼーションと行動分析」を読んでくださいね.