「意識を高める」

marumo552008-06-13

 ここ数回、応用行動分析の授業の質問にだらだらコメントしています。外部の方で(あるいはさぼっていて)なんのことやらと思っているかたに、念のためにそのときの授業スライドをもういちどリンクしておきます。
 http://www.psy.ritsumei.ac.jp/~mochi/0806.ppt
 http://www.psy.ritsumei.ac.jp/~mochi/0806.pdf

 前回(上記)の応用行動分析講義での「行動的環境心理学」についての質問に、「意識を高める」ということへ言及しているものが多いですね。わたくしも授業中に、つい「これで参加意識を高める効果があるんだ」とか、つい口に出してしまっていますが、誤解を招く発言でした。ま、そういう表現したほうが日常的にはわかりやすいんですけど・・・(わかりやすいという事と解決に向けて意味を持つかとは別のことですが、つい目の前の人のうなずきに強化されちゃうんですよね)。
 
 万引き防止のための「★印のついた商品はよく万引きされます」とか、カナダの「スピード違反防止の数値つきキャンペーン」にせよ、「参加意識向上」を、効果を上げる理由の説明とすれば、それはそれなりに納得できることではあります。この手の課題に示した対応は、いずれも直接的な強化随伴性をかまさずに先行刺激としてのポスターや看板によるものなので、随伴性関与として表現するのは難しい点もあり、つい「意識」用語で説明する誘惑にかられやすいんですよね。

 「★印のついた商品はよく万引きされます」というポスターがなんで万引きを予防できるのか。授業中には、この例は「具体的行動に具体的随伴性を」「負の強化や罰を極力使うな」のひとつの例として紹介したと思います。この事例について、確かに、前記の2つの原則から即、このポスターの文言が生まれるわけではありません。そこにはかなり実験者の創造的なアイディアというものが介在してます。ですから、この例を言われて「なるほど行動分析的原則からして必然的にこの文言が生まれたんだな」とは考えにくいでしょう。でも質問の中にあった、★印がどんな「意識」を喚起して効果を及ぼしたのか、といった媒介的な概念で説明していくことよりも、どうやって、より具体的な行動を指示でき、また、どうやってネガティブなものにならないようにするか、そしてそのためにはどうアイディアをかましてみることができるか、という方針のほうが、実践的活動を自ら正の強化で維持する上で重要なのではないか、と考えます。やってみなくちゃわからないのが実験の基本的な態度です。だめなら別のやればいいじゃん。

 これが、
         I wonder what will happen if........

の「教え」だと思います。
 
 同様に、「負の強化」と「正の強化」と同じ効果なら(ああ、ネコのベンチの話ね)、負の強化でもいいじゃん、という意見もあったけど、「罰なき社会」を読み返してください。応用行動分析の目標は、「正の強化で維持される行動の選択肢の拡大」であり、社会の中で、ネガティブな連鎖しか生まない攻撃行動や他者の行動を罰でコントロールする仕組みをボトムアップで、ポジティブなものへ移項させようとしているのですから。

 世間の道路標識が負の強化を用いたものが多いのは、即時強化がドライバーにとって効果的だからでしょうか? っていう質問がありましたが、ほとんどば罰で規制することが当たり前の法令順守のもとでの「しめし」と、アイディア不足、効果の評価方法の未開発によるものなんじゃないでしょうか。
 もちろん、社会の中で正の強化を用いることの価値を理解しない人には、そんなこと言ってもだめでしょうけど。

 っていうか、最近、勉強でも仕事でも、それは負の強化でやることが当たり前と思ってる若い人が目立つような気がして心配だよ。


 写真は、ぼくの胃です。左下の写真に、何かひっかきキズが。会議中に腹をたてながら弁当食べていたときにフライが擦った跡か?