条件性弁別課題による「味名の獲得」について

 
 条件性弁別訓練を用いた「味名」を表出する学習に対して以下のようなコメントをいただきました。
●「あまい」「からい」「すっぱい」「味がない」というのを獲得しても、QOLに貢献するのかと疑問です。「うまい」「まずい」を一番に学んだ方が効率が良いと思いました。
●何がこの実験の到達点なのか?

 鋭いご指摘です。「自分の好む行動の選択肢の拡大」という行動的QOL拡大を絶えず目標とするならば、「実験」で使ったような味の名前より、自分の好みを表明する、という方がふさわしいのでは、ということですよね。

 この味名の獲得については、本当はこの先がありまして、最終目標は、「なんか甘いものが食べたい」といった要求言語行動の獲得だったのです。
 行動的QOLの達成のステップというのを考えておりまして、食べ物で言えば、
1)選べないけど、ともかく品質にもこだわっていて、それを食べるという行動が正の強化である段階(当時の大施設でのデフォルト状況)
2)複数のメニューから選択できる段階(ここから個人の選択という要素が含まれるので、QOLと言えるのは、正確にはここからともいえます)。施設でいえば「選択メニュー」というサービス形態で、愛知県コロニーでもほぼこの時代から導入されていきました。導入に際しては、多少とも、紹介した実験の結果も影響しています。
3)そして、既存の選択肢を否定して、これまでにない選択肢そのものを要求する段階
 というものです。3)では、ともかく選択肢として提供されたものを否定する行動を示すことで、(暗に)新たなアニューを要求する、あるいは食品名が表現できればそれを要求する、という内容が考えられます。後者の場合、食品名を表出できるということが条件になりますが、必ずしも食品名を言えなくても、「今日は、なんか甘い物が食べたいなあ」といった抽象的なリクエストっていうのがありますよね。この実践をやっていたバブリーでグルメな時代にあって、そういう形での「選択肢の拡大」が、とりわけ施設生活という前提の中で考えられる「贅沢な(QOLの高い)」かたちではないかと考えたわけです。このとき、「おいしい」「まずい」ではなく、味名についての表出が役立てないか、ということです。
そして、いやしくもQOLといった場合、「おいしい」のは大前提で、いずれも「おいしい」中でもどれを選ぶか、あるいは、さらなる「おいしい」ものを追求できるかということが大切ではないか、と考えたわけです。実際に、そういう「何か甘い物」という形での要求が可能か、という実践研究も、この後、行われました。

 
 ●味刺激を用いたマッチングの様子はわかったが、「におい」でも同様のことができるのか? 「におい刺激」を、今回のような「味刺激」と同様に、条件性弁別の刺激項の中に使用して、刺激等価性が成り立つか、という実験は、実は、大学生を対象に、立命館大学の特殊実験で試みました。「におい刺激」には、ソムリエ検定のための「においサンプル集」(「匂いの華」とか言ったかな)を用いて、文字は「無意味つづり」を使用したような記憶があります。