推薦図書(1)Heaven ご苦楽レストラン

 対人援助という実践的行為を研究するにあたり、援助をする側とされる側の社会的関係としてどのようなスタンスが望まれるかという問題は常に話題になります。
 行動福祉心理学の授業では、最後の方で、そのテーマを実証的研究をもとに紹介していきますが、そのウォーミングアップを兼ねて、推薦図書あるいはビデオなどをいくつか挙げていきたいと思います。中には全然対人援助とは関係ない、私の好みのみで推薦するものもありますが悪しからず。
 その多くは大学の図書館にはありませんので、各自の努力で入手して下さい。
その第一回目は、佐々木倫子の“Heaven? ご苦楽レストラン”(小学館スピリットコミックス全6巻)です。佐々木倫子は、ご存じのように“動物のお医者さん”では、あるべき大学教授と学生のありかたを、“おたんこナース”では、あるべきナースと患者の関係について、きわめて綿密な調査や研究の上に、実にリアルにかつ本質をつく内容で読者を楽しませてきました。
 今回のHeavenでは、きまぐれオーナーが、とんでもなく立地条件の悪い場所にフレンチレストランを作り、そのスタッフの人選から開店までの苦労、そして、はちゃめちゃな中にも一本筋の通っている(かのごとくの)経営方針を貫いていくさまを、コミカルに、それゆえにリアルに説得力をもって表現しています。とくに、「サービス」における、スタッフ(提供者)と顧客(消費者)の距離感に関して、実にうがったストーリーがいくつも展開される。
 様々な困難や問題も、きまぐれオーナーの「はちゃめちゃな判断」でいつも結果オーライ的に切り抜けるのですが、その「はちゃめちゃさ」の基底にすがすがしい「サービス」の本質が常に存在する、そこにわれわれは結構深いところでの共感を覚える、という、さすが佐々木倫子の傑作だと思います。
 「おたんこナース」「動物のお医者さん」でもサービス提供者(教師・看護師)と消費者(学生・患者)の距離感や関係の本質をついたストーリーがいくつも出てきましたが、このheaven では、さらに洗練された感があります。対人援助のひとつの倫理的モデルとも言えましょう。