推薦図書(2)ドラゴン桜

 推薦図書の第二弾は、三田 紀房 (著)「ドラゴン桜」(講談社。現在まで全7巻)です。
 経営不振の私立高校を東大合格者を出すことで立て直そうという事から始まる物語です。異色の経歴を持つ主人公の教師が、「常識的な発想」で抵抗する教師たちを、論より証拠で説得しながら新しいカリキュラムを展開します。生徒の持つ将来像とかそんな「こざかしい」問題も一切抜いて、ともかく東大の入学試験を突破するというピンポイント的目標をかかげて効率的な学習方法を次々と繰り出していきます。スポコン的でも友愛的な物語でもない、「機能分析」や「課題分析」にもとづく具体的受験技術が次々に繰り出されていく新しいタイプの学園コミックです。予備校はもとより高校の先生からの反響が多いわけだ。
 といって、技術中心のマニュアル的な本では決してありません。友情や、相互に協力することの意味も、抽象的あるいは心理的問題に還元されることなく、具体的目標に向かって打ち進むその行為の中の必然的な結果として示されていきます。その意味では、なかなか深いものがあります。
 最近のニュースでも、日本の生徒の学力は高いが、その科目が「好きか」といった質問に対しては最低、といったような報道がなされています。このことは、行動福祉心理学の授業でも前々から話題にしてきました。「負の強化だからあんまり勉強しない」というならある種自然なのですが、それでも逆に高得点をとっている、という現状は、先にいって創造的な活動が阻害されたり、中学高校(大学でも)での学校生活において様々な問題が生じてくる可能性があります。
 ちなみに先日、行動福祉心理学の授業中にとった「勉強は正の強化で維持されていますか、負の強化で維持されていますか」というアンケートに対しても、学生諸君の回答の半分は負の強化によるものでした。
 ドラゴン桜が提起する重要なテーマは、「受験勉強」という、これまで「必要悪」あるいは、いやいやクリアしなければならないと思われていた行動も、実は正の強化で維持できるということだと思います。
 教育者やスクールカウンセラーなどを志望する学生さんには是非読んで欲しい本です。ちなみに大学院(応用人間科学研究科)の「障害・行動分析クラスター」では、担当者の強制的指示によって学生諸君がこれを廻し読みしてます。丸山書店の書棚からこの本が一時消えたのは、ごそっと大人買いした人間がいるからです(ちなみに、それはN主事だったんですけどね)