猫のベンチに座ってください

 痴漢防止のポスターで盛り上がってますね.みなさんのアイディアたいへんグッドです.行動分析実習あるいは行動福祉心理学の授業の効果があがっていると大変強化.
 スピード違反(VanHouten, et al., 1980),駐車違反,点字ブロックへの迷惑駐輪(佐藤他,2000),トイレの落書き(Stuart, 1996; Mueller, et al., 2000),節電,万引き対策(McNees et al., 1976)など,コミュニティの中の行動分析(望月,1989参照)の研究は,対人援助場面での直接的な支援のありかたを考える上でも,あるいは実践デザインなど行動分析の基礎知識を得るためにも参考になります(相手が不特定多数の集団という限定がありますが).
 そこでは,遅延強化より即時強化,具体的行動に具体的結果,そして正の強化の追求など,行動に関する基本原則や応用場面での倫理を確認することができます.
 先日のJ-ABA学会で発表した「猫のベンチに座ってください」(望月・川縁,2005)も,「迷惑行動」(相談室前のステップに座り込む)を減らす際に,ネガティブな表現(「来談者の迷惑になるので座らないように」)を避け,”脱力的”かつ具体的に行動を指示するもの(「猫のベンチに座ってね」というポスターとベンチに貼った猫のシール:写真参照)による効果を検証したものです.
 もっとも参考にしたのがMcNeesら(1976)の万引き対策の研究です.「万引きは犯罪です.警察に突き出します」というネガティブかつ一般原則を示したポスターと,「★印のついた商品はよく万引きされます」という内容のポスターおよび実際に商品棚に★印をつけるという2つの方法が比較され,後者で絶大な効果を挙げたというものです.
 今回の猫ベンチ実験,結果は今いちだったんですが,なんにせよ,同じやるなら「楽しいもの(うふふなもの)」「ユビキタス正の強化」という私の考える行動分析学のテーゼをアピールしたかったので発表したわけです.
 興味のある方は,以下の論文も参照してください.
●佐藤・武藤・松岡・馬場・若井 2000 点字ブロック付近への迷惑駐輪の軽減 〓データ付きポスター掲示の効果〓. 行動分析学研究,10(1),37〓47.
●VanHouten,R.,Nau,P.,&Marini,Z. 1980 An analysis of public posting in reducing speeding behavior on an urban highway. Journal of Applied behavior analysis,13(3),383-395. 
●Watson, S.T., 1996 A prompt plus delayed contingency procedure for reducing bathroom graffiti. Journal of Applied behavior analysis,29,121-124 
●Mueller, M.M., Moore, J. W., Doggett, A., & Tingstrom,D. H.,. 2000 The effectiveness of contingency-specific and contingency-nonspecific prompt in controlling Bathroom graffiti. Journal of Applied behavior analysis,33,89-92 
●McNees,M. P., Egri, D.S., Marshall, R.S., Schnelle,J.F., & Risley, T.R. (1976): Shoplifting prevention: Providing infrotmation through singns. Journal of Applied Behavior Analysis, 9, 399-405.