装い

 北京出張には松葉杖を持たずに行って,かの地の横断歩道で,さんざん「弱肉強食」を体感する状況に遭遇しました.RやNは,ずんずん行っちゃうし.「いつもと逆ね」とか言って平気で置いてく.
 で,最終日にやっと杖を買うことができました.皮肉なことに,全予定を消化し,もう膝なんかどうなってもいいやと思って行った万里の長城でみつけました.40元(500円くらいかな).市内では全然みつけられなかったけど,観光地で杖は買えるんですね.日本も同じか.で,これを帰国してからも愛用しています.
 杖をついて歩くというのは,松葉杖とはまたずいぶん違う感覚です.違う行動が形成されてゆきます.
 基本的に早く歩けません.松葉杖のときは,「強化選手」といった言葉がふさわしい勢いで歩いていたものですが.杖だと,なんか態度も急に老けてきます.座っているときも,杖を両手で支えてそれを左右にゆらゆら動かしながら,スターウオーズに出てきた仙人(?)みたいに,つい「そこのお若いの」といった口調になります.泰然自若.馬耳東風.馬馬虎虎(まあまあふうふう).Rに「せんせ,その話,三度目ね」とか言われても気にならない.
 こうした行動は,現前の相手との会話場面のみでなく,電話の口調などにも出ることに気づきました.すぐ般化.
 先日,よくある「ワンルームマンションのオーナーになって節税」の営業電話がかかってきました.いつもなら「ああ,もうそういうの全然興味ないっす! お金ないし」とか言っても,なおかつ「お金要りません,これは節税の話です」とか,さんざん食い下がられて,最後には,向こうが話しているのにガチャンと切るというパターンだったんですが,全然違いました.
 「おお,ようするにマンションのセールスですかな.たいへんですのお.本社はどこにあるんですかのう.息子もあんたの年頃で・・・」とか丁寧に応対してしまった.そしたら,早々に「すいません.また別の日にお電話します」とか言って,向こうから切られちゃった.もっと話してもよかったのに.ボケ老人と思われたか.ま,ほとんどそのとおりだが.なるほど,この水のように受け入れ受け流す姿勢.太極拳か.中国4000年の歴史の杖の魔法か.老人力を強化するのにはこれだな.杖の力.

 装いは重要なものです.
多少矛盾するような報告になりますが,この杖で殴ってないのは,もはや学部学生のみとなりました.最初に殴ったのは,S学部N教授.★教授はもちろん院生Nは当然しょっちゅう.事務系と続いて,忘年会でN養護学校の教員某と続きました.
 やっぱ武器を持つと使いたくなるんだな.
★先生,廊下で歩いているとき,わざと杖をけとばして転ばせようとするのはやめませう.また体罰します.T先生,ゼミ紹介のとき,ちゃんちゃんこみたいのを着ていたので,つい「これも貸してあげましょうか」と言ってごめんなさい.他意はありません.純粋に老人の連帯表明です.S元学部長,逢うたんびに「ふ,歳には勝てんな」とか暖かいお言葉ありがとうございます.執行部時代に「鉢の木」ではせ参じたわが身にご主君からのふさわしいお言葉といつも感じいっております.
 早く髪も真っ白にならんかなあ.