(新)行動倫理学・行動美術学そして授業レジュメ

marumo552006-06-25

研究倫理を考えるとき、対人援助系の研究・実践を行っている人間なら、1)インフォームドコンセント、2)プライバシー保護、3)情報フィードバック、といった要点がまずだれでも挙げることができると思います。これらの要件は、言うまでもなく研究参加者や対象者の権利擁護という観点から挙げられるものです。以上のような研究倫理というのは、一般論としては、研究・実践者が自身の活動を行う際に自らの研究行動について守るべき原則といえます。個人情報保護法といった法律がこれをすでに統制している場合もあるし、法律としては明文化されておらず、あくまでも道義的あるいは不文律的な内容も含まれていると思います。

 不文律的な内容については、根本的には、なぜそれを守らなくてはいけないか、その根拠はどこにあるのかという問題がたえずつきまといます。さらにいったん自らが道義的な原則を確認しても、そもそも自分で原則を作ってそれを自分で守る、あるいは長期的利益のために直近の随伴性の誘惑を受けずに行動する、といった事柄は極めて難しいことは、これまでの行動に対する経験則としてよく知られているところです。

 そのために、個人の中で完結させようとするのではなく、従来法律等で統制されていない行動統制の原則については、その問題に関連する社会的組織や集団によってあらたなルールを作ることになります。そこでは、ある特定集団が当該原則をメンバーが破ると全体にとって迷惑になったり集団の存続が危うくなることを避けるという随伴性が基本となることになります。
 しかしその「集団」は、冒頭で述べたような実験参加者と、利益を共有したり相反したりと、ややこしい立場にあるわけですから、この裁定には、第三者的視点が必要となりますが、その第三者というのは誰を選べばよいのでしょうか。
 またそもそも誰がこのルールを作るべきなのでしょうか。研究者自身?被験者集団?あるいは大学といった研究機関?


とか、いま、研究倫理というのはそもそも何かという基本的な問題を、いまさらながらですが考えているわけです。行動分析学研究の2004年19(1)の「行動分析と倫理」などを読むにつけ、勉強不足であったと痛感することしきりです。論文の査読作業をしていると、「こんな研究していいのか」という思いは、しょっちゅうなんですけど。

 学術振興会などからも「科学者の行動倫理」といったアンケートがきたり、各学会での規定が整備されたりと、この数年でほぼ体制は固まると思いますが、立命館大学としてはどのような研究倫理を定めるべきなのでしょうか。学科、学部、研究所、大学といったレベルを考えたときにも、微妙に利益は相反します。

 研究倫理というのは、紙に貼ったルールでおわる話ではなく、行動のしかたに対するルール集であり、またそれを守ったり守らなかったりするのも行動である以上、これまで培った行動的原則といったものを加味して作る必要があることは言うまでもありません。


そういう意味で「行動倫理学」という概念が重要であることは言うまでもありません。
「研究者倫理」というと、何か個人に一方的に責任を負わせるような印象もあります。研究とは、言語行動であり社会行動です。それゆえに環境との関係ぬきに考えることはできません。研究倫理は、あくまでも研究者倫理ではなく、研究行動倫理であるはずです。であれば、なぜ非倫理行動が生じるかという問題は、研究者の個人属性を追求しても充分ではないわけで、それを行う社会的随伴性を考える必要が出てくるわけです。研究者の行動と、研究行政の問題は切り離して考えることはできません。そのとき、研究者の属する組織の随伴性は大きな問題であり、ルールの母体である組織と、研究者や学生個人とのあいだにそもそも利益相反があれば、すでに問題を抱えていくことになります。


 など、まださっぱりまとまらないのですが、ちょっと休養して、「行動倫理」じゃなくて、「行動美術」という概念はなりたつでしょうか、という話題。
 写真は、京都在住の山田実氏「EHO-恵方(セーマン)南南東」。ギャラリー恵風(丸太町通東大路東入る、野村ビル2階)で、7月2日までやってます。これを見たとき、思わず画廊の人に、「これはばら売りするんですか?」。「はい。ご希望なら一本6万」とか。美術というのは、基本的に、芸術家の行動産物について値をつけるわけですが、しかし行動的に考えれば、作品そのものは記号なんですから、あくまで鑑賞するという行動との抱き合わせで価値が決まる。しかし、このでっかい丸太状のものを、一本買って帰って家においてそれを眺めるという購買者の行動を作者は考えたことがあるだろうか。恐らくないでしょうなあ。地震で倒れたとき、いかにも頭にあたりそうです。ギャラリーで見るときの値段かな。こういう立体作品の価値は。
 しかし、じーっと眺めていくと、いろいろと思うところあり。北山杉を素材にしたこの作品群、不思議と自然の中にいるような、宗教的な感覚がよみがえるような。



あ、応用行動分析学(6)の授業レジュメアップしました。
http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~mochi/ABA6.ppt
http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~mochi/ABA6.pdf