「プロンプトが抜けない場合」(Fi-Sさんへのコメントです)

marumo552006-07-01

(質問)自閉症児の場合、言語による毎回のプロンプトがあれば簡単な調理ができるという場合、どのようなアプローチを試みたらいいのでしょうか?現実的には、マンツーマンでの対応が難しい場合が多く、限られた時間内でどこに問題があるのかはっきりしないまま、同じ手順を繰り返すということに意味があるのかどうかも疑問です。

(わたくしの意見)
「プロンプトが抜けない」事態と解釈してお答えします。いわゆる「指示まち」と言われる状況にも共通する問題です。プロンプトにも、そもそもフェイドアウトしにくいプロンプトというのもあります。
まず先行刺激系のプロンプトでは、そのプロンプトが当該作業工程に不可欠な内容を含んでおり、それを言われないと正しい反応ができないような場合です。たとえば「ここで塩をスプーン2杯」といった内容で、その内容を本人が覚えられない場合は、当然、将来にわたってもプロンプトがないとできません。
また、後続刺激系としては、必ず作業工程の途中で確認を入れるような行動連鎖がある場合、その確認してくれる対象の人がいなければ次に進むことができません。課題分析表を次々こなすような方法で訓練をしている場合(全課題提示法などの順行型の指導法ね)、とかく、ひとつの行動要素ができたら強化したくなりますが、そのために、その社会的強化がないと次へいけないような状況になっている場合です。
明確に強化をしなくては、という思いから、行動連鎖の途中のユニットであれ最終的な完成した時点のいずれにせよ、あまりに強烈に「よくできました!」とやっていると、当該の行動は、作業自体の完成という強化よりも、もっぱら社会的強化で支えられることになります。最終的にも、料理ができたということより、ほめてもらうほうが大切だという状況ではそういうことがおこりがちです。
前に携帯電話のトレイニングをしているときもありました。あんまり恐ろしい声で強化するんで、生徒さんがおびえてはる。そのときの「よくできました!」は、もう殆ど「お前のために指導しているわたしに感謝しろ」と私には聞こえたので、思わず訓練者に「てめえがうるせえから学習できないんじゃ!!」と蹴りを入れました(体罰

                 こほん(咳)
         
 もちろん最後まで何らかのプロンプト(援助設定)が必要であるという場合もあります。それでも、マンツウーマンというわけにもいかない、というのであれば、その人的プロンプトを物理的プロンプトに置き換えていくという手法が考えられます。言葉や身振りで提示していたプロンプトを他の視覚刺激(写真)などに置き換える方法は一般的なものです。
クッキングについては、私のゼミでも、グループホームでの実践を何年か行いましたが、この物理的刺激としてクッキングブックを使いました(というか、クッキングブックの研究だったわけですが)。クッキングブックの研究では井上雅彦先生の論文(たとえば、行動分析学研究8巻1号)なども参照ください。

 いま対応されている自閉症のお子さんの状況や目標設定にもよりますが、「人間によるプロンプトつきから、(なんの援助設定もなしに)それを全く一人でできるようにする」という方向で考えるのではなく、上記したようなクッキングブックや写真などを使った物理的援助設定つきで行えるようにするという方針もあると思います。そのためには、現在のプログラムの改変が必要かも知れませんが、何にもないところで一人でできる、というより、マニュアルをみて自分で行動する、というほうが大切なスキルかも知れませんよ。汎用性のあるスキルですし。

 プロンプトを抜けきれないというのは、「理論」と実践の不一致ではなく、もろに理論的(行動原則的)な話であり、それへの対処を考える分析こそが「理論」的作業です。
 プロンプト系の問題は、ジョブコーチ作業でも非常によくある話です。特に負の強化で叱られながら作業していると、だいたい指示まちになってしまいます。さらに、自分で刺激を選択したり、自分の作業を自分で評価できなくなってしまいますから、実力とは無関係に「作業の仕上げ」などが悪いみたいに言われてしまうこともあります。
 必ずしも「逆行条件付け」方向にいくのではなく、自分で自分の行動を評価して次にすすむ、そのための援助設定はなにか、そのための強化随伴性の設定はどうすべきかといった検討も、理論的(行動原則的)な課題のとらえ方だと思います。

 黒子に徹するのが対人援助学のきも。舞台のかげでアクターにセリフをつぶやくプロンプターは、いまや客席やステージのへりにあるセリフのディスプレイにとってかわりましたよね。


写真(絵)は、最近のWORDの機能についてる(?)似顔絵ソフトで出来た私の顔(Kさん、ありがとうございました)