臨床心理学って何? 研究入門の諸君へ

marumo552007-06-22

 本日のグループ発表では、いくつかの臨床心理学に関わる話題が提供されました。示された資料の殆どが二次資料で、実際の臨床行為に関する実証的研究の事例がなかったのは残念です。都賀さんの作ってくれた「データベースの使い方」がせっかくあるんですから、なるべくそこへアクセスしてみましょう。研究論文は、確かに最初のうちは難しいかも知れませんが、いくつか関連のあるものを読み進めるうちに、だんだん、その領域でどんなことをやっているのかわかってきます。
 もちろん、現段階では、トラウマってなんだ? 音楽療法ってなんだ? みたいなばくっとした用語の説明のようなかたちでレポートが終わってしまうのも仕方がないのですが、うっかりすると、辞書的定義みたいなかたちで覚えこむような結果でおわることがあります。
 諸君が、実験心理学を基調とする心理学専攻に在席しているメリットは、そうした概念についても、それがどのように検証されうるものなのか、言われているような状態は、そこに書かれている原因による、というに足りる根拠があるのか、などという視点を常に持てるようになることです。「なんとかセラピー」というのも、星の数ほどあります。しかし、それらのうち、具体的方法とその効果の関係をきちんと示しているものがどれほどあるか。データベースを探してみても、もし見つかったとしても、全然そのような分析や検証がなくて、その効果だけが(あるいは大部分がそこで想定される「目標」だけが)声高に言われているだけの場合が多いことに気づくでしょう。
 
 「臨床心理学」を批判しているわけではありません。しかし諸君は、上記したような分析的な視点で常にそれらを批判的にみる習慣をつける必要があります。そのとき、学期の冒頭から何回か講義した「相関と因果は違うのだ」ということを常に念頭において考えてください。

 さらに、臨床心理に限らず対人援助に関わる学問や研究において、色々な方法・手段があるという現実は、それらは、「同じ目的に向けて様々な方法がある」という風に横並びにあるものを、諸君が眺めているというのとも違う場合があります。様々な臨床的課題(例えば「多重人格」とか)について、それを問題する人もいれば、問題視することが問題だ、と思う立場もあります。ある手法が、どんな最終的目標に向けておこなわれているのか、どういう基準で、それが正しいとされるのか、実は、皆さんが想像している以上に多様です。
 
 というわけで、授業中に紹介した、臨床心理学を俯瞰して眺めるための参考書を一冊、あげておきますね。写真参照。 大森与利子(2005)「臨床心理学」という近代:その両義性とアポリア雲母書房