教職GP 上田陽子さん(FSJG代表)を迎えて

marumo552007-06-23

  金曜日(22日)6時限目・7時限目は、恒例の教職GPの授業でした。今回は、「脱ひきこもり支援」代表(立命館大学人間科学研究所客員研究員)の上田陽子さんを招いて講義をしてもらいました。
 特別支援とひきこもり。ちょっと距離があるように思えるかも知れません。しかし、「FA宣言+キャリアプラン」というこの授業の大きな機能を考えれば極めて共通点の多い話題です。前回の井上雅彦先生の余暇の支援、第二回の山本淳一先生の「できるを伸ばす」、坂本さんや金山さんの「自己決定」、さらには「記録の意味」などのそれぞれのテーマに共通する核となる意味(機能)を共有した応用例ともいえます。
 「FA宣言+キャリアプラン」という作業文脈を前提に、特別支援あるいは個別の包括支援プランのありかたを確認しさらにグレードアップしようというこの教職GP授業の流れでいえば、今回の上田さんとのセッションは、起承転結の「転」にあたるものともいえます。上田さんも、もともと行動分析の個別の方法論の専門家でも優等生でもなく(失礼! 中鹿先生の基礎実験レポート再提出という過去もあるそうな。大笑)、しかし行動分析学のバックボーンたる「正の強化で維持される行動の選択肢拡大(この中にはいわゆる自己決定の命題も含まれることになります)」、「記録の重要性」、といった、ほんとに基本的なテーゼをもとに、あとは、自分で、「脱ひきこもり」のグループを注意深く、おおいに悩みつつ、そして悩み(課題)にぶつかるたびに、上記の原則に照らして修正しながら、ここまできたという人です。
 その経過と成果にあたるものの一部を、研究倫理の問題にも触れながら発表してもらったわけです。聞いている院生諸君(学校の先生を含め)が、この発表をきいて、特別支援の実践においても何が強調され再確認できるか、ということに気づいてもらえるかどうか(言語化できるか)、というのが後半の討論であったわけで、いわば中間試験だな。
 相違点として、先生方いわく、1)総合支援校での就労実習にも共通するジョブの話題があるがドタキャンを許すなどは難しい、2)総合支援の対象生徒の能力的観点からは、ひきこもりの人たちのような選択肢がない、3)ひとりひとりに異なる仕事を見出すのは学校では難しい、などなど、色々出てきました。
 ここでは無理やり、異なる点を発表してもらったという授業文脈ではあったわけですが、はからずも、特別支援あるいは包括支援プランの遂行の難しさの理由みたいなものも明確になりましたね。
 先生方の上記のような発想を転換してもらうために、ドタキャンあり(「見学します」「離脱します」)の自己選択場面を持ち込むことでかえって集団の参加が促進できること( 1)に対応)、30歳40歳になった成人が現実の社会の中でどれほど選択肢を探すことが難しいか( 2)に対応)、ひとりひとりの状況を細かく観察し、仕事メニューを慎重に決定し参加しやすくする( 3)に対応)、という、むしろ、より困難な状況にあっても、特別支援で課題になっているような原則的課題を乗り越えられる、ということを示すために、上田さんに発表をおねがいしたわけです。またそれゆえに、起承転結の「転」であったわけです。
 「正の強化で維持される行動の選択肢の拡大」ことを支援するような作業をプロアクティブな対応、現在の問題行動をともかくなくそうとする作業をリアクティブな対応と区別します。前述したように「FA宣言・キャリアアップ」というのはプロアクティブな作業の典型的状況です。そして、これは施設や学校ではこれまでの集団的指導と一方的評価という学校教育のパラダイムではなかなか難しいことです。
 プロアクティブな実践を制度的に強制するという方法も、引きこもりの親御さんとは違い、高い給料をとっている先生に対しては必要である、という考えもあります。わたくしがコロニーにいたころは、そんな風に考え「行動福祉」という義務追求型、あるいはある意味、制度的な「権利保障」のような図式を考えていたのですが、それはやっぱり現実的には(というか行動的原理としては)無理なものです。
 「プロアクティブな援助実践行動をどう正の強化で維持するか」というのが、当然、考えなくてはいない主要テーマです。
 その意味で、上田さんやそのグループは、自らのプロアクティブな実践を維持する(正の強化で維持する)には、どのように自らのグループを組織し、記録し、またそれをもとに他の個人や機関に支援のネットワークを広げることができるか、ということを実践してきた、という部分がもっとも重要なポイントでしょう。かつて出口光君の論文「行動修正のコンテクスト」(行動分析学研究)に、みずからがそうした環境を作っていくスキルを獲得することが大切である、という内容を書いています。まさに、そのことを上田さんたちは実践して、ひいては対象となる「ひきこもりの子」の社会的交換としての行動の選択肢を拡大してきたのです。
 
 この教職GPのテーマである、個別の包括支援プランというものの維持・発展のためには、自らの支援行動の課題分析をする、ということは、まさに、自らのプロアクティブな実践を維持するためのセルフ・マネジメントに関する課題なのです。
 
  来週は最終授業ですが、この点について言語化し「自らの実践プラン」を作れることが卒業試験となります。クリアするまで、レポートは再提出ということにしよっと。