学力サミットの地へ「評価の旅」

marumo552007-11-08

 「学力サミット」のひとつの実践地域であるY県S市に訪問しました。家庭と学校の基礎的生活習慣と反復学習によって、学力向上を目指すこのプロジェクトは、「百マス計算」で有名な(というキャッチは、ご本人は嫌がられてますが)陰山英男先生を代表とするものです。今回訪問したS市では、教育委員会がほぼ同様の企画を計画され、そこに陰山先生が協力しているというかたち。ですから市と陰山プロのコラボレーションであるといえるでしょう。今回は、陰山ラボが本学人間研に「評価者」の推薦を依頼され、あれこれしているうちに、結局私自身が行くことに。陰山ラボの研究員のY氏の案内で遠路、新幹線を乗り継いで行ってきました。

 最初は、S市の某小学校で、プログラムの基本をなす「モジュール学習」を見学。かっこいい若い先生がリーダとなって、古典や現代文をクラスで唱和。って、これはラップですな! 古文の末尾の「けり」という部分で、全員、足を挙げたりする。ラップですね。なかなかノリのいい授業です。後でお聞きしたところ、“ラップ方式”はこの先生のオリジナルだそうです。ともすると飽きてしまうかもしれない反復学習をどう支えるかという先生の工夫とのこと。その次は、教室を移動して、タブレット型の端末を利用したPC学習。ペン入力で、漢字の読み、漢字書き取り、その他の問題が、某出版社のサーバとの通信で展開。こっちはまだ通信の問題が若干あるみたいですね。でも生徒は「もっとやりたい」と、以前テレビで放映された某附属小学校での学習風景のようでした。みんな良い生徒だな。
その後、S市の教育長との面会。教育長としては珍しい理科系の研究者をやっていた方ということで、一連の学力向上のための試みの評価をどうやってevidence basedで示しうるかということに腐心されていました。相関から因果への道は、こうした研究ではなかなかに険しいものですが、群間比較的な実験的検討は教育場面で「公平感」を損なうことになると。そこで、時系列的な変化も検討されているようですが、諸般の事情で、なかなか独立変数の開始やそれに対応した従属変数を明確に見出すのも難しいといったお話でした。シングルサブジェクト・デザインなどの話をこちらからは提供して、大いに盛り上がりましたが、新幹線の時間が来て、やむなく議論は打ち切り。その新幹線の帰京の途中に早速にメイルをいただきました。自然科学系の先生らしく、試みの有効性を実感しながらも、確かな検証がすんでからしか結果は公表したくない、という誠実な悩みをお持ちのようで、それは実践研究する仲間としては大いに共感し、かつ改めて自戒しなくては、と思ったわけでした。

 今回の見学で、実地に観察したり話しあいを通じて確認したことは・・・・
1)反復練習という作業ですが、これは直接に生徒の脳に響く、というより、むしろ、この反復の中で(反復がゆえに)先生が生徒の変化をよく見られるようになる。つまりこれは生徒と先生の関係に関わる変数で(も)あること。それゆえに、先生の力量が試されることにもなる。反復された対象にしか科学的なアプローチは難しいという大原則や、行動分析のスタンスとも共通することです。最近の学生ジョブコーチの実践でも改めて感じるところです。
2)生活習慣の確立という問題は、ある意味、無誤謬的な話なので、どうも事改めて研究対象としていくことに抵抗があったのですが、「朝ごはんを家族で食べる」ことの難しさはいったいどこから来ているのか、という根本的な問題提起も含んでいることが、お話の端々から覗われたこと。さらに、今回のことで実感したことは、一連の試みの中で、生活の中の活動(勉強、テレビ、ゲームその他)の測定やその評価について、やや物足りなさを感じたのは、それらの相互の「随伴関係」についての分析がないということです。どのくらいをそれぞれの活動に費やしているかだけではなく、それらを誰がどのように管理しているのか、といった問題です。もちろん低学年の生徒においては、それは親が管理すべしというのが自然かも知れませんが、時間の長さを決めるだけの問題ではないこと、そして子ども自身がどのようにそれを自らアレンジしていくか、という視点も重要ではないでしょうか。

 陰山ラボのY氏とは、基礎学力合戦を新幹線に乗っているあいだやってました。Y氏は、新幹線で駅を通過するたびに、その都市の代表産業などを教えてくれました。でも、関門トンネルの「関門」の意味はぼくが教えてあげました。京都に帰ってからも、しばらくメイルで基礎学力テスト合戦をしてました。Yさんありがとうございました。S市の先生方、ありがとうございました。