塩加減(QOL第三段階への道)

marumo552008-07-24

 Sさんの卒論のテーマは、障害のある人におけるクッキングスキル獲得プログラムですが、先行研究としては井上雅彦先生たち(行動分析学研究1995,8(1))のものなどが挙げられます。クッキングにおいても、ジョブコーチ、行動的コーチングなどと同様に、獲得のための手続きとして、課題分析、全課題提示法、モデリング、などを使うことができますが、獲得したクッキング方法の組み合わせによって、新しい献立を作るというのが井上先生の研究の特徴だったと思います。
 
 さて、Sさんの卒論、某総合支援学校から紹介してもらった参加者のひとりは、会ってみたら実はイタリアンレストランで働いたことがある!というツワモノで、Sさんよりスキルが上(!?)かも知れない。という極めて難しい地点からのスタートです。
今回、「作った物がおいしい」という味の評価があってこその創作料理あるいは行動的QOLというわけで、味付けについて、そもそもどう支援可能なのか。具体的には、まず塩味の加減について、「鶏がらスープの味付け」の仕方を例に、心理物理学的に「極限法」(あれ、調整法かな? 学部の頃、「感覚知覚ハンドブック」を丸暗記したと噂されていた私なのに・・・)の技法を用いて検討しようというものです。
 
 心理物理学というのは、心理的判断を物理的な量で表すものです(良い子は教科書で確認してください)。料理のレシピに「塩少々」とかあるのは、「おいしい」と判断できる状態を、塩「少々」という物理量で表現できるとするものです。
しかし「塩少々」とか「おこのみで」とか、よく料理ブックには書いてありますが、こういう表現は一般の課題分析には書いてはいけないとされるあいまいな表現です。極限法は、心理専門の諸君はよくご存知のとおり、ある刺激(例えば塩)の物理量を決まった単位で少しづつ増やしていく(上昇系列)、あるいは減らしていき(下降系列)、その刺激に対する判断(「おいしい」)の転換点(味がない→おいしい。しょっぱい→おいしい)をみつけていくものです(良い子とSさんは教科書で確認)。

 ただし、塩を増やしていくほうはいいですが、塩を減らしていく操作は、現実の鍋を目の前にしてそれは難しい。さて、どういう課題分析が挿入できるか。典型的なクッキングの危機管理技術。しかし、これが卒論になるか?


 写真は、ネコ時計のマニュアル。これを見て、「モードボタン」が「鼻」ではなく「顔全体」だと思う人がいるだろうか。