特教(その3) taijiさんのコメント(27日改訂)

marumo552008-09-26

9月22日の日記(http://d.hatena.ne.jp/marumo55/20080922)に、以下のようなコメントを横浜のtaiji様からいただきました。リプライさせていただきます。

 以下青文字はtaijiさんのコメントです。

 先生のお話されたことで、質問したいことがあります。先生は、お話の中で、「生徒・利用者が仕事を維持する上で、正の強化が重要であり、正の強化とは嫌々に仕事をしないことである。」といったことを話されていたと思います。このお話での正の強化とは、仕事(活動)内容そのものに内在している強化のみなのでしょうか?就労場面を考えると活動に内在する強化以外にも、その職場での人間関係から生まれる外的な強化(例えば、仕事をよくやっているねと稀に褒められることや休憩時間に職場の人と楽しくおしゃべりする)やかなり遅延されますが、お給料がもらえるといったことも強化になると思うのですが、これは正の強化に含めて考えないのでしょうか?それとも活動に内在する強化が前提でありこの強化をさらにバックアップするものとしてお給料といったものを考えたほうがよいのでしょうか?当たり前のことなのかもしれませんが、先生のご意見をお聞かせください。

 
 もちろん仕事にともなう強化とは、当該の仕事の遂行や完成という「内在的」強化のみではないと思います。職場の人間関係の中から生じる社会的強化なども不可欠だと思います。もちろん給料も、就労行動の基本的強化であると思います。
 ただ最近、しきりと私どもが「キャリア・アップ」という行動的にもあやふやな表現を使ってみたり、ご指摘のように「いやいや仕事をするのではなく(負の強化)ではなく、楽しく仕事ができる」事態を強調するのはなぜかと、自らをふりかえってみますと、学生ジョブコーチのプロジェクトを始めて以来の、いくつかの経験が影響しているように思います。

 
 まず「給料」の点ですが、わたくしも総合支援学校の高等部の生徒さんの就労実習においてジョブコーチを始めたときに、就労支援というのは、仕事をする行動のみでなく、労働に対する賃金による消費といった行動とセットで支援すべきではないかと考えました。事実、就業量に見合った賃金をもらっているかを確認したりATMの使い方、さらには「もうちょっと働かせて」という要求行動が出るようなセッティングでの支援なども試みてみました(丹生卓也・崔希柄・望月昭.養護学校生徒の就労実習場面における金銭管理.日本行動分析学会発表論文集,25,86.2007)。ところがどうも、あまりお金や貯金にこだわりがなくてちょっと拍子抜けみたいなところがありました。ま、あくまで実習という設定であり、そのお金で生活するといった背景もないので当然といえば当然なのですが。このへんは、本当に生活者としての就労という場面になれば違うと思いますが。また賃金が強化となるかどうかを確認したり主張しにくいのは、就労支援の立場からは、なかなか給料を変数としてその効果を実証的に検討することが難しい、といった事情もあるように思います。

 
 様々な社会的強化の問題ですが、きわめて重要な問題であることは身にしみています。というのは、就労継続が難しくなってしまった卒業生の人に学生ジョブコーチが支援に入ってその職場に入ってみたら、全くといっていいほど社会的強化がなくて、それがあれば継続可能であることが実証的にも示されたにもかかわらず、まったく容れられず、結局、キャリアダウンを余儀なくされたという事例もあります。

 したがって就労行動に対する外的強化については重要であることは認識してはいるのですが、それでもあまりその事を全面に出して主張せずに「楽しく仕事ができる」ことを問題にするのは、
1) 生徒の「勉強」についても同様ですが、どうも就労(はたらく)行動というのは、つらいものである、がまんが必要であるというふうに、学校でも福祉現場でも認識されているのではないか、と思うことがあります。賃金や社会的強化を強調することが、そうした「つらい部分」を補うために配置する、というふうに捉えられるのに抵抗があるわけです。養護学校の高等部などで、就労を念頭に、「まず一定時間、仕事に集中できること」なんていう目標を掲げているのを見ると、つい、ああ、もしかして学校の先生って、自分も負の強化で仕事してるんじゃないかと、つい疑いたくなります。ましてや、障害があるがゆえに、ことさら、「つらいこと」を我慢しなくてはいけないとなればそれはちょっと違うだろ、ですよね。
2) そして第二点目は、障害がある生徒は、自分で自分の仕事を、より楽しくできるような能力に乏しいと一般に認識されているのでは、という思いがあります。いわゆる「カイゼン」みたいな工夫は、実は、いろいろな形で生徒さんが表明していることがあるにもかかわらず、ともかく「指示に従うこと」ということを優先的に教授しているように見えることが多いのです。それでいて「臨機応変」も望まれたりするんで、これもちょっと違うだろ、ですよね。
 
 最近の学生ジョブコーチの基本的テーマは、自己管理(セルフ・マネジメント)が可能となるような支援です。ここで「自己」というのは、自己決定の場合もそうであるように、「ひとりで出来る」ことを目標としているのではありません。あくまで、仕事を工夫することによって、仕事行動がさらに正の強化を受けやすくなるように、環境設定を変更していくことを自分でしたり提案することです。ジョブコーチはその変更行動や提案行動を支援することに焦点をあてていくわけです。 
 もちろん「カイゼン」といった手段は、わずかなコストで、就労行動を拡大したり維持するための、雇用者側からすれば都合の良い手段として利用されることもありえます。でも、どうせ仕事をするなら楽しくできたほうが良いと、(まあちょっと脳天気かもしれませんが)考えているわけです。決して外的強化を否定しているわけではありませんが、就労行動それ自体も正の強化で、という観点を強調したいがためです。