バリアフリの心理学(10月28日)の復習

marumo552008-11-01

 遅ればせながら、「バリアフリー心理学」の復習。今回は、「ろう重複」の障害のある高校生を参加者として、携帯電話によって「居所報告をする」という研究についての序章にあたるものでした。詳しい内容については、次回もう一度復習します。今回は、この研究を通じていくつかハイライトとなる内容について、早口で紹介しました。

 
 第一点は、これは前回からのキャリオバーだったんですけど、携帯電話の着信音(バイブレーション)に「気づく」ということを、あるいはメイルの内容を「読む」という行為をどのように学習してもらえるかという話題です。このふたつの行為は、いかにも日常的には一般的な行為のようにも感じますけど、「課題分析表」の中の項目としてあげることはできません。当時、携帯電話の研究を実際にしている学生さんたちは入れてたなあ、この項目を。そこで、このふたつの「行為」をどのような形で学習するかというと、授業で示したような条件性弁別訓練(「見本合わせ」ともいいます)という事態を設けるわけです。この図式については、授業レジュメ(第三回目の冒頭のほうで示しています。http://www.psy.ritsumei.ac.jp/~mochi/08BF3.ppt )。

 
 第二点目は、「居場所報告」については、そもそも「居場所報告をする」という言語行動は、どんな強化で維持されるかという問題です。最初にとりあげる濃添らの論文(http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/hs/hs/publication/files/NINGEN_7/181-191nozoe.pdf)では、「駅名」を報告して親御さんを安心させる、みたいな筋書きなんですけど、当人にとってどんな強化があるかといえば、かなりあいまいです。ここでは通学路(対象の生徒さんは普段は聾学校の寄宿舎にいて週末だけ電車を乗り継いで家に帰る、という状況)の中での「報告」が主です。般化テストでは、まったく新しい駅名についても報告できるか、ということも確認されてますけど、やはり当事者についての強化はあいまいです。ふたつめのLu and Mochizuki(2005)の研究では、「どこにいますか」「誰といますか」というふたつの質問に応えるという受信メイルへの対応という点では同じですけど、後半、質問に応えるだけではなく、当事者も別の人に質問する、という設定も入っています。


 この研究では「誰かと、おちあう」という最終的な結果が想定されています。その点では、当事者にとっても強化があるわけですけど、居場所を報告するために、いったいどんな内容を報告することがその目的に照らして適当かというのは、実際ぼくたちの日常を考えてみるとわかるように、結構むずかしいものですよね。居場所を知らせるために、そのへんにいる猫の写真を写メすればいいか? 一般的には、猫じゃまずいよねという話になるんですけど、もしかしたら、どっかの駅長ネコみたいなネコなら充分場所を伝えることになる、と。しかしその場合でも、「駅長ネコ」が駅から離れてたらダメなわけで、そうなるとやはり固定してないとダメか。いわゆる「ランドマーク」を写して送るといった結論になりがちなんですけど、どっかやはり腹に落ちないでしょ。この研究をやっている最中も、しょっちゅうそんな議論をしていたのですが、ここでも問題はその携帯メイルを送信する相手、つまりは「聞き手」の事を考えなければいけないんですよね。


 後半のLu and Mochizuki, 2005の「写メールによる居所報告」に関する研究発表の様子の実況報告(in Beijing北京)は、11月24日からの日記の通りです。http://d.hatena.ne.jp/marumo55/20051124 いや、なつかしい。若い学生諸君も、近い将来、海外で発表するという機会もあるでしょう。その時の反面教師的資料として読んでみてください。


 写真は、ネットのどこかで拾ったネコ