シネマで学ぶ『人間と社会の現在』第4回『蛇イチゴ』

marumo552009-02-21

 シネマで学ぶ「人間と社会の現在」(シリーズ家族の現在)の第4回は『蛇イチゴ』(西川美和監督)。解説は本学の村本邦子さん。司会は中村正(常務理事)さん。

 これでシネマ企画は3作連続女性監督。ということで、村本先生の解説も女性目線のようにも聞こえたような気がします。
この映画もシリーズテーマでもある家族の話です。「家族の崩壊と再生」とパンフレットにはあります。わかりやすいハッピーエンドではないのですが、豪華配役の名演技にも支えられたおしゃれなスラップスティックの末に、一抹の光明で終わるという展開。ちょっとヨーロッパ風の映画ですね。リストラを家族に言い出せずに、借金こさえて街金から追われているおとうさん、おじいちゃんの介護に疲れたお母さん、セレブっぽいボンボンの同僚と婚約しそうな「まじめな」教員の娘の三人家族。とそこに、認知症のおじいちゃんが亡くなってその葬式で、むかし勘当されて家を飛び出し、香典泥棒で荒稼ぎして指名手配中の息子(兄貴)が、みんなと出くわして・・・というストーリー。

 村本先生の解説は、配布されたこの家族に対する質問例を軸に、答えはひとつではないけど家族のありかたについて皆で考えようというもの(as usual)。その前提として、この家族は“どこかおかしい”ということ、そして、広い意味での「嘘」というキーワードのもとで話が展開されました。
 長女は、真っ正直に、家でも学校でも正論かざしてるけど、朝の出勤時に「今日は水曜、ジャージはいいの?」といまだお母さんから忘れ物を指摘されている。いなくなった兄貴のことは婚約者には話さない。訪問した婚約者とは家族一同、きれいごとの会話に終始し、その婚約者といえば「僕の家とは違ってよい家族だね」といった、「上から目線」のコメントをする嫌なやつ(嘘つきの上に嫌な奴)。家出していた兄貴は、やばい商売や香典泥棒で鍛えた嘘八百で弁護士になりすまし、葬式の会場にまでお父さんの借金の取り立てに暴れこんできた街金を追い返してしまう。そんなこんなの「おかしい」と「嘘」が、この事件おじいちゃんの葬式で一気に破綻する。

 誰の目線でこの映画をみていたか。村本先生はお母さんと娘か。中村さんは、香典泥棒の兄貴目線で観てこの結末からも元気をもらったと。そこで、観客席で居眠り半分だったところに、中村さんから「MOCHIさんもそうでしょ?」と振られてあわててマイクを持ちました。わたくしは年齢のせいもありましょう。「ぼくは、お父さんの目線でみてました。そして『嘘は社会貢献』なんじゃないか。この映画で家族に貢献していないのは、娘だけでしょう(お兄さんを警察に売るし)。しかし、娘もこれを期に嘘つきになれるんじゃないか」とか、訳のわからないコメントをしてしまいました。
 「この家族のどこがおかしい? 嘘? 正直、この映画をみていて、どこにも誰にもおかしいところや嘘がある、という視点で見ることはできませんでした」 だいたいお母さんは、あの大谷直子なんだからな。そりゃお父さんは言い出せないよ、リストラされたなんて。わたくし、大谷直子のデビュー作「肉弾」(1968)を浪人中、東京池袋の文芸座地下で見て以来のファンですから。