行動的環境心理学(応用行動分析レジュメ5)

marumo552010-05-28

 28日(金)の応用行動分析のコミュペからコメントの抜粋を以下に挙げます。簡単コメントつき。

1)「自律的他立」と「自律的自立」ということで、鉄棒の逆上がりのことを思いだしました。最初は先生に押してもらいながら、次に補助用具を用い、最後は自立でできるようになりました。今、思えばあれは「今」を認めるやり方だったと理解しました。

(人的援助、物理的援助、自立、という順番は、自らの達成感が残りやすいですよね。)
2)正の強化のもとでの、自律的他立(あるいは他立的自律)について。自転車に乗れるようになるまで後を抑えてもらったことを思い出した。自立とは不安定な状態に慣れることでもあると思う。
(なるほど一面の真理)

3)映画館でアルバイトをしている。シアターの外でゴミを受け取るのですが、後でシアター内に入るとゴミやトレイがたくさん残っている。外で受け取っているのを知らない人がいるのではないか。
(ゴミ袋の配付と事前に「外でゴミ袋をスタッフが回収します」というアナウンスをしたらどうですかね。授業では10セントとか割引券の配付という物的な随伴性でしたけど、日本だったらゴミを受け取ったときに「ご協力ありがとうございます」といった言葉でも結構効果があるんじゃないかな?)

4)禁煙について。喫煙したら即時的にマイナス効果が呈示されるようにはできないか。周囲の環境や人がネガティブな効果をもたらすとか。でも、嫌悪的刺激を用いずその行動を減らさなければいけないとすれば・・・
(喫煙すると気分が悪くなる薬とかあるようです。周囲の人や環境が、嫌悪的刺激を出す、というのは、ま、今でもそうですよね。愛する人に「口臭い!」とか言われて止めたという人を知ってます。海外留学中に、列車のコンパートメントに同室した婦人から、匂いで「smoker!!」と罵られて禁煙したという話も聞きます。でもみんなネガティブ。
 何時間か吸わないでいたとき、i-phoneの画面に描かれた人体図が黒からグレイ、グレイから透明、みたいにだんだんきれいになっていくようなポジティブな手段はないですかね。)

5)ディズニーランドの会社では、笑顔が素敵だったり、対応の仕方が良かったりすると、(係りの人がスタッフを監視していて)そのスタッフにポイントが加算され一定のポイントがたまると「あるごほうび」が与えられる、といった話を聞いて、すごくいいシステムだなと思った。これはポジティブなコントロールだと思います。
(ほんとにこんなシステムになってるんですか。へえ。って調べてみないと。ただ「仕事で笑う」という状況で、「笑顔が貼りついたような顔」でずっと仕事するようになっちゃうと、ちょっとスタッフはだんだん苦痛にならないかな。もちろん、笑顔でないと叱られるんじゃなくて、ポイントがもらえる、という意味ではポジティブではあるんですけど。)

6)「猫のベンチにすわりましょう」は、「猫用のベンチ」と誤解されないか。
(お、確かにそうかも。世の中には猫がきらいな人もしますしね)

7)ポジティブなほうが良いに決まっているけど、なんでネガティブな表現の方が使われてしまうのでしょうか。
(そうなんですよね。即効性でしょうか。スキナーの「罰なき社会」を読んでみましょう。心理学の学生であれば、学内からCiniiから検索できます。)

8)公衆トイレに落書きされるのを防止する方法を考えてみました! むしろ落書きをさせて、それを作品とみなし、「上手であれば賞金を与えます」という広告を貼っておけばいいんじゃないでしょうか。落書きを外装のデザインにしてしまうというのもアリだと思います。
(徹底的な「今を○」ですね)

9)今を認めるということの○→○はわかったのですが、○→×がいまひとつわかりません。・・・どうして後に×になるのですか? あとで考えたときに×とはどういうことなのでしょう。
(「今を認める」ということを、常に認めていく、という方針を表そうとするなら、確かに○→○のほうがわかりますよね。○→×という表現は、×→○との対比を強調するという純粋レトリックな(受け狙い?)側面もあると思うのですが、障害のある子どもなどへの支援(昔は「療育」という言葉を使ったりもしたのですが、子ども自身の行動自体もまったくそのまま変化しないことを前提的に肯定するのではなく、子どもも変わる、という事も、支援の目標に含まれると思います。行動分析的にいえば、行動形成という作業です。現状できる行動レパートリーを認め(基準を下げて強化する)、当事者の行動の分散(ゆらぎ)の中で目標に近いものを分化強化する(次第に基準を上げていく)という操作の繰り返しは、たえず「今」できることを認める(○とする)ことを繰り返しているのですが、しばらく経った時点で、過去を振り返ってみると、いま達成している行動内容からすると、「あ、あの頃はいまいち(×)」だったな、というふうに言えますよね。前回も最後のほうでデンショバトの行動形成の図式をみせたと思うのですが、あれは「援助」(今できるための環境設定)と「教授」(そのもとでの行動の定着)を繰り返しているわけですよね。)

10)「車椅子マーク」の場所への違法駐車を防ぐためコーンを置くという従来のネガティブな方法しか考えなかった私はまだまだネガティブです。
(車椅子マークの場所への違法駐車を減らす実験というのも、米国ではずいぶんやられています。そこでは、実はやはりネガティブな手段じゃないとダメなんじゃないか、という結果も出てます。具体的には、「違法駐車がいたら、カードにナンバーを書いてこのポストに入れてください」といった共同監視みたいなことをやると効果があるというものです。ちょっとねえ。

11)お金や物でつるのはいかがなものか。
(精神論的対応の正反対が「お金や物」という二項対立の一方が、行動分析的対応だというふうに考えないでくださいね。直近の随伴性に敏感というと、その方向になりがちですが、当事者たる人たちが、積極的に参加したくなる=コミットしていける、というのが行動的方法を表しているとも言えると思います。

12)正の強化による行動修正の弱点は?
 行動的環境心理学に限定した場合、手続きとしては、コストの問題(時間、労力)を挙げることができるかもしれません。より一般的には「正の強化」といっても、それをしないと×が待ってる、ということを隠蔽してやってしまうと5)で述べたような問題にも関連しますが、抑圧的な方法になる可能性もあります。正の強化を前面に出すことで、つい行動の選択肢を限定してしまうような場合もありえるかも知れません。それは常に考慮して戦略を考える必要があります。絶えず公開することも必要だと思います。

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かなり昔ですが、行動的環境心理学の「まとめ」を、「行動心理学ハンドブック」にレビューしたものも
リンクします。出典は、
 望月昭:社会行動−コミュニティの中の行動分析−小川隆(監修)行動心理ハンドブック、368-371. 培風館
 http://www.psy.ritsumei.ac.jp/~mochi/20-Mochizuki(1989b).pdf


 「今日の1枚」の写真は、最近、生協で買った和英辞典。なんか、見出しがついてたり、使用例の赤いマーカーが書いてあったり、ずいぶんインストラクティブじゃなあ、と思ってたんですけど、見出し付箋が邪魔なので、はずそうと思ったらページも破れた。と、やっと気づいたんですけど、この本は商品見本だったのかあああ!!! 普通に2冊並べておいてあった1冊を、無造作に中を見ないで取り上げて買ったぼくの責任かあ?