キャリア・アップ再考(2)

marumo552009-02-12



 企業でいう「キャリア・アップ」という概念は、個別の社員を「よりよき」状態にするという支援を継続的就労の条件と考える点では、実はきわめて「教育的」なものといえます。

 京都市の特別支援学校においては、「個別の包括支援プラン」という、生徒の「キャリア・アップ」の軌跡、つまりは、どのような支援のもとで個別の生徒が最大の力を発揮できるかという実践の経過から、次の実践ステップを見通すシステムが制度としてある(福祉施設においても「個別の支援計画」としてあります)。そして、その下で、就労に関する学習としても、学内・学外で実習的な教育プログラムが展開されています。しかしそこでは、ほんとうに「働くことが好き」になるような支援ということを優先できているかどうか、つまりは「できるから続けたい」「面白いからカイゼンもしてみたい」という「キャリア・アップ」のためのプログラムを意識的に組んでいるかどうか、という点ではまだ課題が残ります。
 この個別の包括支援プランの記述方法は、再三述べてきたとおり、現状では通信簿と同様にその時点での「点」としての能力が列挙されたり、目標値と比較して、まだ不足していると思われる欠点が申し送りされる「引き算」の結果が記述される場合がまだ多いのです。つまり、実際の就労の場において役立つような「どのような支援がその生徒に有効であったのか」という、キャリアを累積していくような支援経過が必ずしも的確に表現されていないように思います。

 そのために、実際に就労の場面において、それぞれの個人にあった効果的な支援がすぐにできるような情報が発信できていない。その結果、企業であれ、就労移行施設であれ、当事者を引き受けてから、もう一度その個人の「できる」条件について、「ゼロからスタート」しなくてはならないのが現状です。今、必要なのは、学校時代から就労の継続までの長期的なそれぞれの個人の「できる」を可視化し、それゆえ当事者や支援者を勇気づけることのできる情報を移行できるシステムなのです。

 今年度、京都市の「障害のある市民の就労支援に関する調査・検討委員会」においては、「キャリア・パスポート」という仮名称でそのような情報移行システムを議論しました。家庭、学校、そして企業あるいは福祉事業所が、それぞれの時点までに、当事者に対してどのような支援を行い、どのような方法が有効であったかについて過不足なく情報を移行ためのシステムとして想定されるものです。この名称については、当初、「就労手帳」といった障害性を想起させるような案も出されました。しかし既に述べてきたように、ここに書かれることは個人属性としての障害性でもなく、目標からの引き算の結果でもなく、「今できる」こと、そしてそれを基本にこれから「できそう」なことの展望なのである。後ろ向きで引き算ではなく、これまでの実績を累積してさらにその先を見通す、それゆえ、「パスポート」というポジティブな名称をあえて提案しているわけです。